嫌われ役
――前回の続き。
上司は冗談めかした口調で続けた。
「まぁ、ここだけの話、古株のオバサン達は口煩いからね」
しかしこれは辞めるチャンスではないか。いつまでもこんな状況の仕事を続けられない。ここで終わりにしよう。
「私も以前から思っていました。元々私は短期の派遣で、皆さんの簡単なお手伝いだけというつもりだったのですし。もうこのあたりで私も退職させて頂けると助かります」と私は言った。
すると上司は慌てた様子で「それは困りますよ。この役をしてくれる人は絶対必要だからね」と言う。
「この役」とは結局、パート達がやった仕事をチェックする人。それをパート達に伝える人。嫌われ役だ。
要するに、上司は強いパート達と直接関わりたくないのだろう。
一言注意すると何倍にもなって返されてしまうのだから。
上司は続けて言った。
「僕のような男性が言うより、ころりさんのような女性からワンクッションおいて言ってもらった方が皆いいと思うんですよ」
―――それって、単に押し付けてるだけでしょう?
「でも私のような時々顔を出す程度の、それも同じパートから言われれば誰だって気を悪くされると思います」と私は言った。
すると上司はウンウンと頷きながら、
「そこでですね、私の案としては、同じパートだとどうしても今回のような意見が出てしまうので、ころりさんには以前のように派遣を通して来て頂こうと思うのです。来て頂きたい時に派遣会社に連絡しますから。立場が違えば、仕事内容の違いも線引きしやすいでしょう」
これがこの日、私を呼び出して言いたかった事らしい。
直接雇いか派遣かで、今更どうこう変わるとは思えない。
「それよりも辞めさせて欲しい」ともう一度伝えてみたが、上司には「そういう事で」と押し切られてしまった。
会議室を出て皆のいるフロアを通る時、誰もこちらを見ていないのになぜか無言の視線を感じた。ただでさえ不器用な私がこんな中途半端な働き方をする事自体、無理なのではないか。
次の呼び出される日が怖い。キッパリと辞めると言えなかった自分が嫌い。
- 関連記事
よく読まれている記事