僕はあなたが思う以上にお金を持っています

―――前回の続き。
久々に会社に出勤し、やはり辞めさせて欲しい事を伝えた。
「申し訳ありません」
私はそれしか言えなかった。
それでも社長は一向に首を縦に振らず、「うーん…」と沈黙。
そして言い始めた。
「僕はね、ころりさんの為にも辞めない方がいいと思うんですよ」
…どういう事?
「こんな働きやすい職場はなかなか無いですよ?ここで勤まらなかったら他に行っても無理ですよ」
確かに。そうなのかもしれない。
融通が利き、仕事は楽、ただ座っているだけでも良さそう。だが私はここに勤めている間、「働きやすい」と感じた事は無かった。
どちらかと言えばずっと居心地は悪かった。
社長は続けて言った。
「ころりさんは辞めたらきっと後悔しますよ。でも後で戻りたいと言ってもそれは無理ですよ」
当然分かっています。戻りたいとは思いません。私は心の中で呟いた。
そして社長は、「僕はね、ころりさんが思っている以上にお金は持っているんですよ」
はぁ?
この言葉を聞き、私の心はドン引きした。
それの何が私の退職と関係あるのか?
その後、社長がどれ程財産家なのか、この年齢でその財産はどれだけ凄いのか、という話を延々と聞かされた。
社長は、「だから僕の元で長く働けば、そのうち何かしら恩恵を受けられると思いますよ」と自慢げに言っていた。
こんな事、自分で言う?
社長とはこんなもの?
確かに育ちが良さそうで、頭ごなしに怒鳴るなんて事はない。
だから人によってはとても条件の良い職場なのかもしれない。
だが頭の固い私は、こんな考え方の人の元で長く働きたいとは到底思えない。
「申し訳ありません」
私はそれ以外に言う言葉が無かった。
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