あなたのものは私のもの

―――前回の続き。
父の死後、実母の通院に付き添った日。病院帰りに母が私の家でお茶しようと言い始めた。
私の家でお茶を飲みながら母が言い始めた。
「お父さんから手紙貰ったでしょ?」
私は驚いた。
なぜ母がそれを知っているのか。
私と父だけしか知らない事だと思っていたのに。
昨年、実父が亡くなった。体調が悪く入院してからあっという間だった。
「何で知ってるの?」と私が聞くと、父が母に便箋や封筒を持ってきて欲しいと頼んだらしい。
父が入院してから母はしばらく見舞いに行っていた。
コロナ禍なのですぐに帰る事がほとんどだったが、私も母を病院まで送る運転手として一緒に行く事が多かった。
その時、母は父に頼まれ、便箋を父に渡したと言う。
そうだったのか…。
だが私は母に手紙の事を知られているのが何となく嫌だった。
すると母が言った。
「その手紙、読ませてよ」
え?何で?
これは私への手紙でしょ?どうして母が読みたいの?どうして読ませないといけないの?
だが母に見せるのが嫌なのに言葉が出ない。断る方法が分からない。
目の前にいる母の威圧感が怖かった。
「何で読みたいの?」
聞きたくもないのに私の口から出た言葉はそれだった。
「だって家族じゃない。最後のお父さんの言葉でしょ?私にも読ませてよ」と母は言った。
私の心は嫌だという気持ちでいっぱいなのに、母が強くそれを望んでいるのが伝わってきて、これを断るのは非情なのか?と私の中で葛藤があった。
結局私は断る事が出来ず、母にその手紙を渡した。
すると母は私の目の前で読まず、「家に帰ってから読むわ」と言い、バッグに入れて持ち帰ってしまった。
私は自分の大切なものを奪われた気がして、その後何も手につかなかった。
父がいなくなってからもまだ、母は私と父を支配しようとしている気がした。
そして次に母と会った時、当然手紙を返してくれるだろうと思っていたのに母からは何も言わない。
それで私は、「あの手紙は?読んだなら返してよ」と言った。
すると母が言った。
「手紙はお母さんが責任を持って保管します」
…何それ?どういう事?
私は頭が真っ白になった。怒りでも悲しみでもなく…なぜか怖かった。
「…何で?」
それだけ聞くのが精一杯だった。
母は言った。
「だってお父さんの言葉は家族のものでしょ?みんなで共有しないとね」
私はあの手紙はもう私のものではないと思った。
もし手元に戻ってきたとしても、読みたいとは思えない。
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