私が欲しかったもの

――前回の続き。
昨年、実父が亡くなった。体調が悪く入院してからあっという間だった。
父から手紙を貰ったのなんて生まれて初めて。
いつの間にこんな手紙を書いたのだろう?
私は手紙を読み始めた。
手紙には、私が子供の頃にどれ程可愛かったかという思い出話がいくつか書かれていた。
その手紙の中の私はまだ3歳児で、歩けばキュッキュッと音が鳴る靴を履いていて、その後ろ姿がひよこみたいだったらしい。
父の思い出話はどれも私が幼児の頃ばかりで、中高生の頃の事は一切書かれていなかった。キラキラした美しい思い出で、まるで他人事のように感じたが、それでもその手紙からはその頃父は本当に幸せだったのだろうと感じた。
そして手紙の後半。
「こんな父親でごめん」
そう書かれ、無口な父親が精一杯、自分の気持ちを言葉に表し私への謝罪が綴られていた。
父親らしい事をしてやれず、逃げてしまった事を申し訳なく思っていると。
でももし病気が治れば、今までよりももっと私と交流したい、だから治るように頑張ると。
手紙を読み終わり、気付いた時には私は泣いていた。
嬉しかったのか悲しかったのか分からない。
ただ凄く辛かった。
今更父親に何も期待していないと思っていた。
だが手紙を読み、私は父からのこんな言葉を待っていたのかもしれないと感じた。
父なりの私への思いは感じられたし、私の中でもやっぱり父は父で、今になってようやく心に触れたような気がした。
そして何より父が諦めずに治ると信じている事も辛かった。
私は翌日病院に行き、「手紙ありがとう」と父に伝えた。
すると父は何も言わず、こちらを見て笑っていた。
その顔が今でも忘れられない。
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