必要な壁
今の職場に行き始めた最初の頃、一人のパート女性がよく話しかけてくれた。
だがやたらと立ち入った質問が多いのが引っかかった。
折角声をかけてくれているのだからと、うまく合わせようとはしたが、本当は初対面で急に仲良くしようとする人は今一つ苦手。
でもそんな風に決めつけてしまう私自身に問題があるのかもしれないと思った。最初から壁を作るべきではないのかもしれない。
彼女に聞かれた。
「じゃあ長い間働いていなかったのね。どうして?」
私が前職を辞めてから子供もいないのに長期間仕事をしていなかった事が、気になるらしい。
「不妊治療とか。なかなか仕事と両立は難しいかなって」
私は適当に答えた。実際は不妊治療はしていないが、大抵の人はこう言っておいた方が、これ以上は聞かない方がいいと察してくれる。
だが彼女は違った。
「この会社にも今不妊治療やってる子、たくさんいるよ?でもフルタイムでちゃんと勤めているし。全く働けないって事は無いと思うけど。他に何か事情があったの?」と突っ込んできた。
さて困った。どうしよう。
しばらく濁していたが、言葉を準備していなかった為に私は狼狽えてしまった。
「何でも遠慮なく話してよ。これから一緒に働くんだから」と彼女。
私は思った。
ここでいつも壁を作って隠そうとするから私は秘密主義だとか、何を考えてるか分からないとか言われるんだ。いっそ何でも話しちゃえばいいんじゃないだろうか?と思えた。
初めから私という人間を知ってもらう方が楽になれるような気もした。
「ちょっとストレスで精神的に疲れてたっていうのもあって……」と言ってみる。
「精神病院とか行ってたの?」
「心療内科に。軽くお薬もらったりしていました。今はすっかり良くなったんですけどね」と私は出来るだけ軽く言った。
「ふーん、そう。それは大変だったわね。無理しないで。もししんどくなったらすぐ言ってね」と彼女は言い、私は自分を偽らずに伝えられた事に満足した。
しかし後にそれを後悔する事となった。
ある日、上司が私に書類を回そうとした瞬間に彼女が言ったのだ。
「課長、ころりさんにそういった難しい仕事をお願いするのはやめた方がいいと思います。パートなのに荷が重すぎます。ころりさんは以前、心の病を罹ったことがあるらしいですし、また病気になったらどうするんですか?」と詰め寄った。
近くにいた他のスタッフは皆静かに注目している。
私は驚きと共に、穴かあったら入りたかった。
しまった、彼女に言うべきではなかった。頭の中で後悔がグルグル回る。
私は何も言わず黙っていたが、上司はパート女性の言葉を聞き流し「いいから、これ、お願いします」と、私の机に書類をポンと置いた。パート女性は納得いかない顔をして席に戻った。
……仕事の荷が重いんじゃない。こういう人間関係が重いのだ。
ここでいつも壁を作って隠そうとするから私は秘密主義だとか、何を考えてるか分からないとか言われるんだ。いっそ何でも話しちゃえばいいんじゃないだろうか?と思えた。
初めから私という人間を知ってもらう方が楽になれるような気もした。
「ちょっとストレスで精神的に疲れてたっていうのもあって……」と言ってみる。
「精神病院とか行ってたの?」
「心療内科に。軽くお薬もらったりしていました。今はすっかり良くなったんですけどね」と私は出来るだけ軽く言った。
「ふーん、そう。それは大変だったわね。無理しないで。もししんどくなったらすぐ言ってね」と彼女は言い、私は自分を偽らずに伝えられた事に満足した。
しかし後にそれを後悔する事となった。
ある日、上司が私に書類を回そうとした瞬間に彼女が言ったのだ。
「課長、ころりさんにそういった難しい仕事をお願いするのはやめた方がいいと思います。パートなのに荷が重すぎます。ころりさんは以前、心の病を罹ったことがあるらしいですし、また病気になったらどうするんですか?」と詰め寄った。
近くにいた他のスタッフは皆静かに注目している。
私は驚きと共に、穴かあったら入りたかった。
しまった、彼女に言うべきではなかった。頭の中で後悔がグルグル回る。
私は何も言わず黙っていたが、上司はパート女性の言葉を聞き流し「いいから、これ、お願いします」と、私の机に書類をポンと置いた。パート女性は納得いかない顔をして席に戻った。
……仕事の荷が重いんじゃない。こういう人間関係が重いのだ。
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