苦手意識
――――前回の続き。
彼女の家は私から見れば豪邸だ。
いつも会う時は狭い私の家ではなく、広い彼女の家になったのもお互い暗黙の了解。
久々に彼女の家に入ると、相変わらずお洒落で溜息が出る。
まるでインテリア雑誌から抜き取られたような素敵な家だ。
全体を真っ白で統一し、リビングは吹き抜けの大きな窓から光が降り注いでいる。
「お茶にする?コーヒーにする?」
そう言いながら彼女がキッチンに立った。
「いいなぁ、ホント、いつ見ても素敵な家で羨ましいよ」と私は素直に感想を述べた。
「そんな事ないよ、案外住んでいると不便な事もあって、エアコンも効きづらいしね」と彼女。
私もそんなセリフが言ってみたい、と苦笑した。
お昼前だった為まだ子供達は帰宅しておらず、しばらくは互いの近況を話した。
健康や仕事、夫や義両親の事など。
彼女が気を遣わないように、私は時々こちらから子供の質問もした。
他の話題でもそれなりに会話にはなるが、やはり母である彼女は子供の話題になると雄弁であった。
今は進学が一番の心配らしい。
塾はほぼ毎日送迎し、朝は4時から弁当作り。その後はパートに出る。
パートから帰宅すると夕食の下準備をし、また塾の送迎へ。
本当に忙しい毎日らしいが、聞いていて充実しているんだろうな、と感じた。
私の一日なんて、昼寝だけの日が多々あり、さすがにそれは言えなかった。
仕事も母親もしっかりこなし、こんな豪邸に住む彼女に欠点はあるのだろか?そんな事を思いながら私は彼女が手作りしてくれたクッキーを頬張った。
13時を過ぎた頃、玄関の方でドアを開ける音がして、私は一気に緊張した。
予定通り彼女の子供Aちゃんが学校から帰ってきたのだ。
中学生の女の子。
「お帰りー、こんにちは、お邪魔しています」と私は精一杯の笑顔で声をかけた。
「あ、どうも……こんにちは……」
Aちゃんは俯きながら、小さく消え入りそうな声で返した。私と目は合わせない。
ずっと以前に会った時にはもっと溌剌としていたのだが、思春期という感じになっていた。
友人は母の顔になり、「ころりが買ってきてくれたケーキ、こっちで一緒に食べようよ」とAちゃんを私の近くに座るよう促し、自分はキッチンの方に行ってしまった。
友人なりに、私と娘が自然と近づけるように気遣ってくれたのかもしれない。
女子中学生と二人きり。気まずい。大人として何か話しかけなければ。
「Aちゃん、よく日焼けしてるね。何か部活やってるの?」
やっている事は友人から聞いて知っているが、他に話題が浮かばなかった。
「……はい」
「何やっているの?」
「……陸上です」
「へー、そうなんだ」
これ以上続かない。私の話す力がなさすぎて、子供に壁を感じさせてしまっている。
その後も友人が戻り、私とAちゃん両方に話題を振ってくれていたが会話は上滑りし、ぎこちない空気が流れるばかり。きっと友人は疲れ果てただろう。
「じゃあ、そろそろ帰るね」と私は立ち上がった。
友人は「またいつでも来てね」と言っていたが、本心だろうか。
友人宅を出て角を曲がる時もう一度振り返ると、友人とAちゃんがいつまでも手を振っているのが見えた。
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