最後の挨拶、マスクの別れ

今日はパートの最後の出勤日だった。
と言っても最近ほとんど出勤していなかったので、最後だという感傷的な気持ちよりも、久々に行く緊張の方が強かった。
何より挨拶のスピーチが苦手な私は、一言二言とは言え、皆に注目される事が憂鬱で…。
が、今回は今のコロナの状況に救われたというか。
挨拶をしていても、皆がマスクをしているし、私自身もマスクで顔が覆われている。
この事でかなり緊張感が軽減された。意外なところでマスク効果が発揮された。
改めて、対人恐怖症の人はマスクをすると随分楽なのではないかと思う。
以前テレビで見たが、何十年間も人前ではマスクをし続けているという人がいた。家族の前でもマスク必須らしい。それだけ長い間マスクをしていると、外す事がどれ程怖いのか分かる気がする。
既に私は今、そのうちコロナが収束し、マスクを外さないと失礼になると言われる日が来るのが怖い。
挨拶の為に行っただけなので、仕事をする事もなく、私用のデスクも無い為片付けるべき物も無かった。
無駄に長時間職場にいても迷惑なので、半日程で帰る事になった。
帰り際、酒家さんとその取り巻きパート達が近寄ってきた。
「寂しくなるわー」
「時々遊びにきてよ」
あれだけ休憩時間には会話に入れず、疎外感しか無かった私なのに、この言葉が社交辞令過ぎて苦笑してしまう。
だけどたとえ上辺だけだとしても、最後にそんな言葉をかけてもらえる事が素直に嬉しかった。
特に酒家さんは最初に出会った頃には苦手で辛かったし、最後まで顔を合わすと憂鬱にもなったが、これが最後だと思うと憎めないような気持ちになった。
「ありがとう」
そう言って私は会社を出た。
パート達の最後の顔が親しみやすく感じたのも、マスクのおかげかもしれない。
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