在宅キーパンチャー





再び外で働くと想像した時、絶対上手くいかない自信があった。

どんな職場であっても、人間関係のない場所はない。
またあんな終わりのない日々が始まるのか……そう想像するだけで、なかなか行動に移せずにいた。

そんな時、ひとつの求人を見つけた。

「在宅キーパンチャー募集」

家で出来る。人間関係がない。私は食い入るようにその求人を見た。
詳しい仕事内容や、報酬単価なども記載されていなかったが、その会社名は知っていた。

多分すごく安い単価だろうと思ったが、こうして家で悶々としているぐらいなら、1円でも収入があった方がずっとマシだと自分に言い聞かせた。

私は急いでその会社に電話した。

電話に出た女性は不愛想な感じで、「あぁ募集ですね」と言って、面接の日時と場所を早口で説明した。
途中、「履歴書などは必要ありません」と女性は言った。そんなものなのか?
私が戸惑っている間に、「筆記用具、忘れないで下さい」そう言って電話はガシャンと切れた。

* * * * * *


その会社は雑居ビルの1階にあった。
緊張しつつドアを開けると、目の前に大勢の人の背中があった。

その背中越しに奥を覗くとそこはどうやら受付で、なんとここにいる全員が今日面接に来た人らしい。

え?こんなに?

30人以上いたのではないだろうか。予想外の人数に驚いた。

その後一人ずつ面接していくのだろうと思っていたのだが実際は違い、「皆さんこの椅子に端から座って下さい」と会議室のような部屋に通された。




その部屋の真ん中に、ぐるりと囲むように椅子が円状に置かれており、まるで皆でミーティングでもするかの様に見えた。

各自その椅子に座り、見知らぬ人同士向かい合う。
私は手元を見ているフリをしながらチラリと周囲の人を観察した。
まだ30代前半らしき女性もいれば、もしかして60代かと思われる男性もいた。定年後のお小遣い稼ぎだろうか。
 

そんな事を想像していると、担当の女性が部屋に入ってきた。スラリと伸びた背筋とロングヘアがどこか冷たさを感じさせた。
そして円になった皆の中心に立ち、口を開いた。

その瞬間、「あ!電話の人だ!」と分かった。この不愛想な感じ、絶対そうだ。

その後の説明もやはり早口で不愛想なままだった。
説明というのは、いきなり仕事内容の説明で、具体的な手順や書類の受け渡し方法、メールでの添付方法などだった。

もしかして面接なんて事はしないのだろうか?
このまま全員が仕事を始めるのだろうか?

何が何やら分からないながらも、早口な担当者の説明を必死でメモるので精一杯だった。

一通り簡単な説明が終わった後、担当者は
「思っている程楽な仕事ではありません。ここまでの説明で、私には無理だと思った方、今すぐ退席して下さい。」と皆を見渡しながら言った。

誰も動かない。

しばらくした後、「それでは……」と担当者はゆっくり動き始め、「実際、今日は持って帰って頂く資料はコレです」と書類を配り始めた。
まさか今日から?いきなり仕事をするのかと驚いたが周囲の人達は無言でメモしている。

その後も更に説明は1時間程続き、「では3日後に納品お願いします」と言われて解散となった。

――――続きます。




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Posted byころり