お姉さんと呼ばれる最後の日

「ちょっとお姉さん、待って!」
今日は出先で駐車場に車を停めて、店まで歩こうとしたところ背後からそんな声が聞こえた。
周囲には他に誰もいない。
え?誰に言ってる?
何秒か遅れて振り返ると、その若い男性はこちらを見ていた。
これはもしや…私に言っているのか?
久しぶりに「お姉さん」と呼ばれた。
というか、そもそも普段決まった少人数としか関わっていない為、見知らぬ他人に呼び掛けられる事がない。
呼び止められた理由は、その男性の車が大型車の為、隣に停めた私の車をもう少し寄せて欲しいと頼まれただけ。
用件はともかく、私はその後しばらく「お姉さん」と呼ばれた事を密かに思い出し嬉しくなった。
だってどう考えてもどう見ても、私はれっきとした「おばさん」なのだ。
30代後半、40代前半の頃にも、「私はおばさんよ」と自分で言っていた。
それはもちろん、その年齢でお姉さんなんて厚かましいだろうという遠慮の気持ちがあったから。
しかし心の奥では、もしかして見方によってはまだお姉さんに見える瞬間があるかも…と思っている自分もいた。今から思うと本当に厚かましい。
だが40代後半になってくると、自分でも「おばさん」と呼ばれる方がしっくりくる。
私の中に「お姉さん」の要素は一切無くなった。
なのに「お姉さん」と呼ばれるとやはり嬉しい。
「ちょっとおばさん」と呼び止められたら何となくがっかりするだろう。
が…そこで思った。
呼び止める側も、どう見てもおばさんに見える人であっても、「おばさん」とは呼びづらいのでは?
女性であれば年齢問わず「お姉さん」と呼んでおけば間違いない…みたいな。
そう考えてみたら、今までも周囲で「おばさん」と他人に呼び掛けているのを聞いた事がない。
しかし高齢女性に対しては、「おばあちゃん」と呼んでいるのを聞く事がある。
60歳ぐらいだとどちらで呼ばれるのだろう。
お姉さん…無理があるか。
おばあちゃん…失礼過ぎるか。
もしかしたら今日、私が「お姉さん」と呼ばれる最後の日だったのかもしれない。
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