普通に生きるのを諦めて年金で暮らす

ーー前回(▶そちら側に行けない)の続き。
そして彼女達は言った。
「心身を傷めてまで無理しなくても生活は何とかなるものです」
無理して働こうとしたり、親の介護をしなくても、まずは自分が楽なように生きればいいのでは?それでも生きていけますよ、と言う。
聞いていると、彼女達3人とも障害年金を受給しているらしい。精神障害者として。
さすがそれには驚いた。
私は精神障害者として年金を受給している人達は、誰が見ても分かる程症状が悪化している方ばかりだと思っていた。
だが目の前にいる彼女達は一見して精神障害者とは分からない。とてもそんな風に見えない。
この日の様子だけ見れば、どちらかと言うと私の方が余程暗くて精神を患った人に見えただろう。
それ程彼女達は穏やかで幸せそうに笑っていた。
そしてさらに驚いたのは、そのうちの一人は夫も働いておらず、夫婦で精神障害者の年金を受給していると言う。
彼女の夫はそれ程体調が悪いのだろうか…と思いつつ話を聞いていると、来週二人で旅行に行くとか、夫が好きなミュージシャンのコンサートに行くとか、毎日のように夫とカフェ巡りしているとか…とても生活を楽しんでいる様子。
それは夫婦の心を癒す為のリハビリ行動だと思えない事もないが…それにしても違和感があった。
夫婦揃って現在も鬱病患者だと言うが、私自身が鬱病だった頃のあのボロボロな様子とは全く違う。
3人とも仕事を辞めてから20年近く経つらしく、それ以来抗鬱剤を服用しながら年金を受給し続けていると言っていた。
宗教活動が出来て、旅行や買い物、友人とお茶が出来る人でも、精神障害者と認定されて年金が受給できる。
そんな簡単なものなの?
毎日色んな事を葛藤し、こうあるべきだ、世間の人達に少しでも近付かなくては…そう思い必死にもがいている自分がバカバカしくなる。
美智子さんはそんな私を見ているのが歯がゆくなるらしく、「年金を受給してもっと楽になればいいのに」と思うのだろう。
親との関わりが辛いなら、夫と離婚して一人になり、年金で慎ましく暮らせば良いとアドバイスされた。
私もそちら側の人間になれば楽になれる。
そんな誘惑に流されそうになる。
それでも…。
彼女達の一人が帰り際に言っていた。
「新しいiPhoneに買い換えたいの。店に一緒に行ってもらってもいい?」
するともう一人が言った。
「いいなぁ、私もスマホ買い換えたいんだよねー」
新しいスマホ。
鬱患者だからそんなものに興味を持つなというのは偏見だろうか。
それでも年金を受給している鬱患者の会話だと思えず、受け入れ辛かった。
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