ただそれだけ、それ以上は期待しない

「近くに来ているのでお茶しませんか?」
美智子さんからラインが来た。
美智子さんの言う「私達の集まり」は、いつもお断りしている。その場所に行ってしまうと抜け出せなくなりそうで。
だが今回のような、個人的なお茶の誘いは私も迷う。
友人がいない自分。同年代の女性と会話する機会も無い。
深入りし過ぎると重くなるが、少しお茶するぐらいなら…そんな気持ちで前回会ったコーヒーショップまで私は出掛けた。
店内に入るとすぐに美智子さんを見つけたが、隣には二人の女性が座っていた。
以前会った人とはまた別の人達。初対面だ。
連絡を貰った時から心のどこかで、「他に誰か連れてきているかも…」と想像していたので驚きは無かった。
もし宗教を勧められても自分が気持ちを強く持ち、一線を引けば大丈夫、そう自分に言い聞かせた。
そこまでして彼女達と会う必要は無いのかもしれないが、たとえ最終的には勧誘が目的であったとしても、誰かと声を出して話したかった。夫でも親でもない、同年代の女性達と。
ただそれだけ。それ以上は期待しない。
「こんにちは、初めまして」
私達は互いに自己紹介した。
以前紹介された女性よりも、今回の二人はもっと……何というか…大人しい感じ。
「ごめんなさい。突然でご迷惑じゃなかったですか?」
相変わらず美智子さんは優しく穏やかな口調だ。
他の二人も本当に優しい声と口調で、私はふと紀子さまを思い浮かべた。印象が似ている。
私が胃の調子が悪いのでコーヒーでは無く紅茶を注文すると、彼女達は私を気遣い、胃腸に良い生活方法や良い病院などを紹介してくれた。
何だろう。
優しい人達といると緊張せずに済む。職場とは大違いだ。
職場にいると周囲の人達がみんな敵に見えてしまったり、誰もが我が身を守る事ばかりな気がしてしまう。
一方、美智子さん達といると、「だよね」「分かる」という共感が多い為、自分を肯定されているような気持ちになれる。
あれ?私、やっぱり彼女達の作戦にハマっている?
だけど仕事で嫌な事が続いている今、彼女達の優しさが心地良かった。
――続きます。(▶そちら側に行けない)
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