子供に頼らない老人の言葉

少し前にスーパーで久しぶりの顔に会った。
このブログでも時々登場しているが70代の女性で、その女性の娘さんは鬱病だ。
元々私はその娘の方と先に知り合いになった。
その後、母親を紹介されたのだが、いつの頃からか娘より母親の方と話す事の方が多くなった。
その娘は精神科に入退院を繰り返すようになり、最近では滅多に退院する事が無いからだ。
「お元気でしたか?」
そう声をかけられて、しばらくスーパーの外で立ち話となった。
やはり聞くと娘は今も入院中だと言う。
「一人で寂しいですね」
私は言った。母娘で二人暮らしだったその親子。無意識に出た言葉だった。
だがその母親は、「そんな事ないわ。一人でホッとしているの。気楽だもの」と言った。
確かにそうかもしれない。
単純に老人が一人暮らしで寂しいだろうと思ってしまったが、母と娘が二人暮らしすれば感情がぶつかり合う事もあるだろうし、一方が鬱病患者ならその相手も大変。
私なら絶対に母親と住むのは無理だ。
そしてその母親に、「ころりさんは最近どう?働いているの?」と聞かれたので、在宅で少し働いていると説明し、「本当はもっと外に出た方がいいと思うんですけどね…」と正直に言った。
なぜかこの女性の前だと素直になれる。
私が過去に鬱病だった事や引きこもっている事などを何となく相手も分かっている。
するとその母親は、「やれる時に頑張らないと、うちの娘みたいになってしまうわよ」と言った。
そして、「うちの娘のようになってしまうと元には戻れないからね」とも言っていた。
「うちの娘のように」とはどういう状態なのか具体的に分からないが、その口調には説得力があった。
自分の母親に同じような事を言われると傷ついたり落ち込んだりする。
だがこの人が言う言葉は素直に聞く事が出来、自然と心に入ってきた。
むやみやたらに「頑張れ」とか、「やれば出来る」などと過剰に励ます事もせず、淡々とただ、「私はそう思うけど決めるのはあなただから」と、どこか突き放した言い方。それが逆にじんわりと染みた。
そしてその人は冗談めかして言った。
「娘も家にいない事だし、私は一人で好きな事をしているわよ。まだまだ長生きしたいからね」
私の義母や実家の母より、この人の方が年上だ。
なのに子に頼ろうなんて発想は全く無い。
娘が頼れないから仕方がないと言ってしまえばそれまでだが、もし頼れる子がいたとしてもこの人なら変わらず自立しているような気がする。
この日も近いうちに手術を控えていると言っていた。
「嫌だわぁ」と言いながらもクスッと笑うその姿に、逞しさを感じた。
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