嫌な印象が薄れ迷い始める

その会社を出た時には、二度と会う事はない…と思った。
それ程印象は強烈で、これ以上この人と関わっても自分が上手く付き合えるとは思えなかった。
――前回(新たな仕事の面接 )の続き。「どうぞ」と、社長自らお茶を入れてくれた。...
帰宅後、夫にその面接の様子を話した。
夫は大袈裟に驚き、
「マジ、無理。あり得ない」と呆れた顔をしていた。
同じ男同士だからこそ、女性と一対一で不妊治療の詳細の会話をする事が信じられないと言う。
「子供はいない、その確認だけでいいだろ?それなのに根掘り葉掘り不妊治療の会話をするなんて気持ち悪いなぁ、その男」と、嫌悪感を露わにしていた。
さらに私が監視カメラの事を言うと、「その人どう考えても変だろ?気持ち悪い」と夫は言い、私にどうするのか聞く事も無かった。
当然断ると思っているらしい。
その社長には、面接時に「採用します」と言われた。
だが私はその場で断る事も出来ず、「少し考えさせて下さい」と伝えてある。
さすがに社長当人を目の前にして、「合いそうもないのでやめておきます」とは言えなかった。
面接直後には迷う事なく断るつもりだったし、夫の反応を見た後も、やはり断る事で間違いはないと確信していた。
しかし深夜、一人で考えていると、徐々にその社長の印象が薄くなってきた。
何がどう嫌だったのか…その時の自分の感情が遠ざかる。
時間が経てばたつ程、記憶が遠のき、自分の思い込みで記憶が悪い方に脚色されていないだろうか…と自分自身を疑い始めたり。
それに最近、家にいると罪悪感でいっぱいになる。
引きこもっている自分。
社会に出ていない自分。
夜になると気持ちは落ち着くが、日中はその罪悪感でいっぱいになる。
私は一日何をしているのだろう…無意味に時間が過ぎる。
夫の実家や自分の親の家に行く事はあるが、そんな事をしていても「何かをしている」という達成感は皆無。ただ義務でその場にいるだけ。
そして実家にも行かずただ一人で自宅でいる時には本当に虚しくなる。
深夜にそんな事を考えていると、面接で嫌だと思った記憶より、日々のその辛さの方が強くなり、やはりどんな場所であろうが、一度関わってみた方が今よりマシかもしれない…と思えてきた。
在宅ワークでも可能という仕事はなかなか無い。
あの社長が自分と合うとは思えないが、そのうち在宅ワークに切り換えられるなら、それ程どんな人なのかを気にしなくてもいいのでは…。
考えれば考える程悩み、結局朝まで眠れなかった。
そして朝、意を決してその会社に電話をした。
「申し訳ありません。今回は辞退させて頂こうと思います」
悩んで出した結果。私は勇気が出なかった。家に一人でいる事も辛いけれど、不安のある環境に飛び込む勇気が持てなかった。
すると社長は電話の向こうで怒り始めた。
「えぇ⁉こちらは来て頂くつもりで準備していたんですよ!」
私はただただ平謝り。
でも……その怒りの声を聞きながら、やはり断って良かったのかもしれないと思った。
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