今までにない返しに気持ちが引く

――前回(新たな仕事の面接 )の続き。
「どうぞ」
と、社長自らお茶を入れてくれた。
その四畳半程の空間に冷蔵庫やシンクまであり、まるで若い独身男性の部屋にお邪魔したかのような感覚。
履歴書は事前に郵送してあった為、社長の手元には私の履歴書のコピーがあった。
そしてその履歴書には、赤いペンでビッシリと何やら書き込まれていた。私のショボい履歴書のどこをそこまでチェックするのか…。
そして面接が始まったのだが、とにかく細かい。
職歴、経験、資格などを確認するのは当然理解出来る。
だがそれ以上の細かい質問が多過ぎて、私の心はかなり引き気味だった。
例えばここで話せる範囲のくだらない質問。
「デスクの上に消しゴムのカスがあったらどうしますか?」
「え?捨てますが…」
「どこに?ゴミ箱に?床に?自分で持ち帰る?」
「……ゴミ箱です…」
みたいな。
何だろう。余程神経質な人なのだろうか?こういった類の質問がいつまでも続いた。
そして社長は私に聞いた。
「子供さんは?」
「いません」
私がそう答えると、「え?いないのですか?」と社長は意外そうに驚いた。
これは普通の反応。今までもどんな場面でも同じような反応を見てきたので、私は笑顔で対応した。
すると社長が言った。
「なぜいないのですか?」
えーっ?この返しは今までされた事がない。何故って言われても。
「あの……ただ出来なかっただけです…」
すると社長、「今は不妊治療とか色々方法があるでしょう」と言う。
「はぁ…でも結果今はいないので…」
どう答えれば良いのか、そもそもこれは面接でするべき会話なのか。違和感があり過ぎる。
するとその社長は、自分も妻との間になかなか子供が出来ず、不妊治療をしてようやく子供に恵まれたという話をし始めた。
不妊治療にかかった費用、夫婦で涙ながらに努力した日々…こちらが聞いてもいないのに、そんな話が延々と続く。そのうち通院していた病院や、自分も通院して男として努力した作業(←伝わります?)など、「いやー、これは無いわ」と思うような会話まで。
頷いて聞きながらも、私は帰りたい、この部屋から出たい気持ちでいっぱい。
最初は在宅勤務がどこまで可能か?など色々確認するつもりだったが、そんな事は頭から消えていた。
そして追い打ちをかけるように社長が言った。
「仕事中は常に監視カメラで作業内容を録画させて頂きます」
社長が指差す方向を見ると、デスクの真横にカメラが設置されており、それで監視すると言う。
私はとてもこの人物と馴染めそうもなく、ようやく面接が終わりその部屋を出た時には心から安堵した。
もう二度と会う事はないと思う。
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