現実はそれきりの人

久しぶりにハローワークに行った。
今月はほとんどパート先に出勤していない。お盆期間があった事もあるが、以前にも増して最近は出勤する日が減った。
出勤した日にまとめてデータを預かり、自宅で深夜、一人黙々と作業をしている。
このスタイルにもすっかり慣れた。
しかし慣れたからなのか、仕事量が減ってきているのか、最近はあっという間に手持ちの仕事が無くなってしまい、物足りなさを感じる。
もう少し自宅での仕事を増やす事が出来れば…。
今のパート先に仕事を増やして欲しいなんてとても言えないので、別の在宅ワークが無いかと定期的にチェックしている。
出来ればネットで探す仕事ではなく、会社が近くで信頼出来る仕事がいい。
数は少ないが、時々ハローワークでも「在宅勤務OK」と書かれた求人がある。
そんな求人を今回も確認したくてハローワークに行ったのだ。
そして、私が求人を検索していると、隣に座っている人に、「すみません」と突然声をかけられた。
ビクッとなり、「はい」と顔を上げると、「教えてもらえますか?」と言う。
どうやら検索機を使うのが初めてらしく、どこをどうタッチすれば良いのか分からないらしい。
私が簡単に選択する項目を説明すると、「あぁ……分かりました~、ありがとうございます~」とのんびりした口調でその人は言った。50代半ばの女性。
その後、私はまた前を向き自分の求人を探し始めた。
だが……隣が気になる。
私が説明したにも関わらず、微動だにしないのだ。
手が動いていない。どうした?まだ分からないところがあるのか?
彼女が固まったまま検索画面を進めないので、私までそちらに神経がいってしまい、自分の検索も上の空。
するとようやく彼女がまた私に話しかけた。
「あの~…これって…どうすれば…」
相変わらずスローペース。
しかも先程説明した事と同じ事を聞いてくる。
私は彼女に一つ一つ質問しながら、一緒に検索画面を進めた。
するとようやく理解したらしく、「分かりました~。ありがとうございます~」と笑顔で礼を言われた。
だがその後も、「あの…」と始まり、今度は印刷方法の質問。
少し変わった人だな、と思ったものの、特に嫌な気分になった訳ではない。ただ、どうしてハローワークの担当者に質問しないのだろうと不思議だった。私なら隣の人に質問するより、その方がずっと気楽だから。
全く壁の無い人なのだろう。
こういう人になれたら私ももっと楽になれるのかも。
私はその人に挨拶し、先にハローワークを出た。
ハローワークでの出会いなんて、まるでドラマ「凪のお暇」のようだが、やはり現実はドラマのような友情に発展する事もなく、それきりの人だった。
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