借りたくない嫁、貸したい義母
そんな壊れたミシンの事を、夫の実家で話した。
ミシンが壊れた。最近あれもこれもと家電が続けて壊れていくような気がする。...
「ミシンって使います?」
そう義母に聞きながらも、義母がミシンなど使わないタイプである事は分かっていた。
予想通り義母が、「ミシンなんて何年も押し入れから出してもいないわ」と言うので、私は「それはミシンに良くないらしいですよ」と義母に言った。
そんなミシンの会話をしていると、義母が突然、
「そうだわ、ころりさんがうちのミシンを持って帰ればいいわよ」と言った。
どうせ使わないのだから私にくれると言う。
本来なら有難い話。
私だって年に何回も使用しないミシン。何かの時の為に、一応家に置いておきたいだけ。ほとんどお飾りだ。
だが私は義母からミシンを貰う気になれなかった。
一つの理由は、たとえミシンごときでも、義母から何かを貰う事で借りを作りたくないという思い。
そしてもう一つは、単純に他人が使用した物が嫌だった。
義母が聞いたら、「他人」なんて言い方は怒るだろうが、私はやや潔癖気味……いや、かなり潔癖だろうか。
それが家電であろうが何であろうが、他人が使用した物というだけで家の中に入れるのを躊躇してしまうのだ。
どれだけ自分が綺麗なのよ?と言われそうだが、潔癖の人にとってそういう問題ではない。
自分のテリトリーは自分の手垢だけでいい。
さらに義母とは綺麗の物差しが合わず、私から見れば不衛生だと感じる部分もある。
それを知っているからこそ、余計にそのミシンを貰う気になれなかった。
「いえ、大丈夫です。自分で気に入ったのを買いますから」
気に入ったのを…と言う事で、私はお古は嫌なのよと伝えたつもりだが、やはり義母には遠回し過ぎたようで、
「遠慮しないで。私は本当に使わないからいいのよ」と言う。
うーん、困った。
これ以上どう断る方法があるのか。
うっかりミシンの話などしてしまった私が馬鹿だった。
その後もしばらく「いえ、結構です」「遠慮しないで」と押し問答していたが、最後にはこちらが折れて受け取る形になってしまった。
いつもの事だ。
「では遠慮なく…」
そう言いながらズッシリと重いそのミシンを持ち上げると、義母は満足そうに言った。
「もし何か縫うものがあったらころりさんにお願いするわね」
溜息をつきながらそのミシンを持ち帰り、すぐにカバーを開けて表面を拭き掃除した。
そして試しに電源を入れてみる。すると…
まさか!このミシンも壊れてる!
その後もあちこち触ってみたが、音は鳴るものの針が下りず動かない。
良かった……と思ったのは言うまでもない。
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